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アラタコウ(工藤興市・くどうこういち)のブログ

国際結婚シリーズ、エッセイ、イベント関連、小説を載せています(^O^)

【コンプレックス】第一話

「工藤さん最近どう?」

 友達から電話があった。

 彼女は全身整形している。

 元は男の肉体だが、性同一性障害の為に自分の性器が納得できなかった。

「工藤さん、何で私は女なのに勃起するのかな?」

 全身整形する前は、よく居酒屋で泣いていた彼女。

 だが、久しぶりに聞く彼女の声は明るい。

「――こんな感じで新しいイベント立ち上げて日本中に元気を届ける第一歩を始めるんじゃ」

「そうなんだ、やっぱ工藤さんはいつも元気だね」

「声が明るいけど最近いいことあったの?」

「彼ができたんだ」

「マジ!おめでとう!」

「ありがとう。工藤さんにも紹介したいんだけど、彼は病院にいるから」

「えっ?」

「彼、昏睡状態なんだ」

 聞けば、自分は元は男の肉体だったと告白してでも、その彼は付き合いたいと言ったらしい。

 彼は彼女に言ったんだと。

「貴方みたいに素敵に笑う人間を見たことがないんです。性別や体の作りなんて関係ないでしょ?大切なのは魂の温度です」

 彼の真摯な思いに見せられた彼女は、運命の人に巡り合ったと思ったらしい。

 めでたく付き合うことになって幸せの絶頂だったある日。

 彼の体を蝕む癌細胞が見付かった。

 緊急入院。

 医者は彼女に言ったそうだ。

「余命一ヶ月です」

 彼女は口を開けたまま何も言えなかったらしい……。

「なぁ、何でそんな状況なのに声が明るいの?だって、失礼かもしれないけど、彼はいつ亡くなるかもしれない状態なんでしょ?」

「だって、温かいから」

「えっ?」

「体中色々な管が入っていて、ロボットみたいだけど、手が温かいから握っているだけで感謝なんです。今、生きていてくれてありがとうって言えるんです」

 言葉も出ない。頭の中で気遣う言葉を探すが、見つからない。

 戸惑う俺の様子を察したのか彼女が「彼はモルヒネでもう意識もないと思うんですけど、たまに手をギュっと握ってくれるんです」と会話を続けてくれた。

「そうなんだ」としか言えない。

「こんな意識がない状態でも私を大事にしてくれてるって思うんです」彼女は俺よりもテンション高くそう言ったかと思えば「私、最高に幸せです」とも言い、さらに俺の言葉を失わせた。

 彼が入院してからずっと、彼女は自宅には帰らず、ずっと彼のベットの隣に布団を引いて寝ているらしい。

「――やっぱホルモン注射してないから、髭が生えちゃって大変なの。朝他の入院患者さんに髭剃ってる姿見られてビックリされることもあるし」

 俺を笑わせようと彼女が投げかけてくれた言葉が痛い。だが、笑ってしまった。

 彼女が悲しさを紛らわす為に俺に頼って電話してきたのかと思ったが、そうでもなかった。

 元気な自分を見せることで俺に勇気をくれたのだ。

 彼女は言った。

「私ね、彼が亡くなるのを待っているんじゃないの。今デート中なの」

 彼女の泊りがけの行動は、他の患者さん、ナースや医師、彼の家族や親戚までにも元気を与えているそうだ。

 彼の親は彼にこう言ったそうだ。

「康之は、貴方と巡り会えて幸せだったと思いますよ」

 暗く落ち込みやすい空間が病院だ。

 当たり前かもしれないが、でもその空間の中で彼女はいつも笑顔でいるらしい。

 泣く俺を気遣って彼女が言った。

「私ね、彼に出会えたことで自分を否定しなくなったの。だって心は女だけど、体は男でしょ?全身整形して女の体を手に入れたけど、やっぱり男の名残がずっとあるし。彼だけだよ。有りの侭の私を受け入れてくれたのは。だから私は今を生きるの。彼と一緒にね」

 彼女の声はやっぱり明るい。

 俺にはただ「後悔しないようにね」としか言えなかった。

 人は産まれ死んでいく。

 死ぬまでの人生をどう有意義に生きていくのか?

 彼女から学んだ気がした。


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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学

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