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アラタコウ(工藤興市・くどうこういち)のブログ

国際結婚シリーズ、エッセイ、イベント関連、小説を載せています(^O^)

【トイレ】第四話

2013/08/07

 今回は、大をする場所にある落書きについて書いてみようと思う。

 三十歳の時に、東高円寺という場所に住んでいたことがある。

 東高円寺という駅の近くには、蚕糸の森という学校に隣接した大きな公園があって、公衆トイレがあった。

 そのトイレに、こんな落書きがあった。

「私はすごくエッチな女です。この番号に電話して下さい。○○○ー○○○○ー○○○○」

 終電近くまで劇団の仲間と飲んでいた俺は、かなり酔っぱらってそのトイレの落書きを発見した。

――エッチな女だと? よし、電話してみよう。

 酔っぱらっているときの行動とは、半端ないことがある。すぐ携帯から落書きの番号に電話をしてみた。

「もしもし?」出たのは男だ。それも歳を取ったおっさん、いや、お爺さんかもしれない。そんな声だった。

「わしはな、一人暮らしをしててすごく寂しいんじゃ」

 すぐに電話を切ろうと思ったが、彼が話すその声にただならぬものを感じて暫く話を聞いてみた。

 聞けば、家族と死に別れて風呂なしアパートに住んでいる七十八歳のお爺さんだった。

 寂しさのあまりトイレに落書きをしてしまい、話し相手になってくれる人を探していたそうだ。だが、電話がかかってきても相手がお爺さんだと知った男性は、電話をすぐ切るか、彼を罵倒して電話を切っていたそうだ。

「あの、こんなことして情けなくないですか?」彼に尋ねると「文句を言って電話を切るだけでも誰かと話せるからそれだけで嬉しいんです」と返された。

 老人ホームで働いていた時に、孤独という単語をお年寄りからよく使っていた。その時感じたのは、歳を取るとは、自分が一人ぼっちになっていくのだということだった。

 百歳のお婆さんがホームにいたけど、彼女の家族も親戚も友達ですらいなくなっていた。そんな中で彼女はこんなことを言っていた。

「生き続けるって大切な人の死を看取っていかなきゃならないの。それは、幸せなのか不幸なのかよく分からないわ」



 三か月後。

「シゲ爺さん、今日はマンションの屋上で花火でも見ようか?」

 落書きをしていた彼とは、親友になった。

 当時付き合っていた彼女とシゲ爺さんとで買い物に行ったりする仲になったのだ。

 こんな付き合いができるようになったのも、彼と初めて会ってみようと思いアパートを訪ねた時に精一杯のお持て成しをしてくれたことが、友達になりたいと思ったのが大きい。

 手料理でお持て成しをしてくれ、自分で漬けたという梅酒を飲ませてくれて、お見送りまでしてくれた。

「ありがとう、こんな貧乏な年寄りの相手をしてくれて本当にありがとう」

 両腕でがっしりと俺と握手してくれたことは、涙が出そうになるぐらい嬉しかった。

 田舎から東京に上京したが、どうも東京の水に合わなかった俺がいた。そんな中で、彼と触れ合うことで、田舎にいる両親を思い出していたのかもしれない。

 それから二年後に彼は肝臓癌で亡くなったが、最後も看取ってあげて、彼の遺言通りに遺骨を福島の海に撒いてあげることもできた。

 ただのトイレの落書きから始まった付き合いだったけど、俺の心の財産になる出会いだった。


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