今まで、このイベントは告知はしていませんでしたが――道路使用許可を取っていなかったので。
今回も使用許可は取っていないので、強制退去になるとその場にいられなくなりますが――その場合は、【あなたをめっちゃ褒めます】のプラカードを持ったスキンのおっさんが立っているので、お声をかけて下さい。
こんな奴です↓

※
道行く人と触れ合うのが目的のこのイベントで、予約は受け付けていません。
需要がなければさっさと引き上げて、23区を電車で回るのがパターンです。
ですが、この日だけは、なるべく中野区にいたいと思います。
褒められたいと思う人がいれば、どうぞお越し下さい。
めっちゃ、褒めますから\(^o^)/
17時からですけど、もっと早くスタンバイする予定です。
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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学
都内23区を回りながら、ござを引いて路上に座り、俺に興味を持ってくれた人をひたすら褒める企画、それが「あなたをめっちゃ褒めます」だ。
2010年に幼児・児童虐待反対イベント笑顔を中野駅で12回主宰し、仲間と路上に座り、多くの人達と触れ合った。それを一人で動ける身軽さを考えて始めたのが、あな褒めだ。――皆がそう言うので、それで統一します(笑
2013年。中野駅前。
20歳の女性が俺の前に座り声をかけてくれた。
「私のいいところなんてありますか?」
恥ずかしそうにはにかむ彼女を30分近く褒めた。
終始俺の目を見て温かい笑顔をくれる彼女を見ながらこんなことを思った。
――この人って、本当にいい人なんだろうな。
これから用事があって出かけるという彼女をお見送りしようと立ち上がると、いきなりバックから財布と貯金通帳を取り出し俺に手渡した。
意味が分からない。唖然としている俺に彼女は「これもらって下さい」と言った。
もらえるわけがない。そのことを伝えると、彼女は俺の手を力強く握り通帳を握らせた。
目を見た。真剣だ。冗談で言っているようには見えない。
彼女の承諾を得て通帳を覗かせてもらった。200万近い残高の表示。財布にもお札がぎっしりだ。
「冗談じゃないのは目を見て判断できたんだ。でも、こんなこと有り得ないでしょ?どうしてこんな大金を俺にくれようと思ったの?」
「末期癌で余命半年だって言われたんです」
切り返せない。また彼女の目を覗き込むと、表情は朗らかなのに、目は笑っていなかった。
「海外旅行するのが趣味で、バイトをしては色々な国に行ってたんです。もうそれもできないから、これをもらって欲しいなって思ったんです。こんなに褒めてもらって嬉しかったし」
「変なこと聞くけど、どうして貯金通帳持ち歩いてるの?ちょっとびっくりしちゃった」
聞けば、彼女は貯金を下ろして贅沢三昧をしようと何日も思っていたらしい。だが、行動に移せなかったそうだ。
彼氏もいなく親とも仲が悪い彼女の救いは海外旅行だったらしい。その為に生活を律してお金を溜めていた彼女には、日本でのお金の使い方が分からないというのだ。
「友達がいたら、飲み会を開いて奢ったりするでしょ?でも友達もいないし、母も再婚してから連れ子ばっか可愛がってるし。私の居場所ってどこにもなくて」
どんな言葉を彼女にかけてあげればいいんだろう? ただ、ただ、彼女の言葉を聞くしかなかった。
「――癌って若い子には猛烈に転移するんだって。私の体中癌細胞がうようよしてるらしいの」
「――親には癌だって言ってないけど、別にそれでいいと思うよ。だって、私って愛されてないから」
「――このお金で私みたいに笑顔になる人を増やしてよ。それでいいでしょ?」
彼女が話すことをずっと聞き続けた俺は、意地悪な質問をしてみた。「もしかしてだけど、癌って嘘だったりして?」
まずい質問だったのかもしれない。彼女の目が曇った。
2月なのに肌寒い。なのに彼女はダウンジャケットを脱ぎ、中に着ているセーターの袖をまくって俺に見せた。
無数の注射痕。とてもじゃないが痛々しかった。
お辞儀をして去ろうとする彼女を慌てて背後から抱きしめた。
「俺は無力だ。どんな言葉を言っても偽善になる。でもね、俺の座右の銘は偽善も遣り切れば真実だ――なんだよね。あなたの状況を聞いたら、親との修復には時間が足りないように感じた。彼氏も友達もいないっていうし、失礼なこと言うかもしれないけど、誰も死に様を看取ってくれないなら、俺に看取らせてよ。このくれたお金は葬式費用にするから。それじゃダメ?」
彼女は何も喋らない。続けざまに思いをぶつけた。
「余命半年って言われたものを、余命百年って変える自信はないの?」
彼女の口元が少し緩んだ。もっと、もっと、彼女を笑顔に変えたい。
「俺はね、こういう出会いも一期一会だと思うんだよね。こうして俺の褒め言葉にありがたみを感じてくれて、大金をくれようとしたでしょ?その気持ちに俺はありがとう返しをしなきゃいけないと思うんだよね」
ありがとう返しの意味が分からないと言われたので捕捉した。「相手がマックスで感謝の気持ちを伝えてくれるなら、それに見合ったものを提示するのがありがとう返しだよ」
暫く考え込んでいた彼女が言った。「じゃ、私が親と仲直りするのを助けて下さい」
やっぱりそうだ。彼女は、親と和解したがっていたんだ。
2ヵ月後。
江東区であな褒めをしていた俺は、彼女の母親から何度も電話がかかってきていたのを気付かないでいた。
イベントの日は、相手を褒めている途中で携帯が鳴るのも失礼だと思い、電源を切っているからだ。
夕方留守電を聞いて愕然とした。
彼女が今朝亡くなっていたのだ。
彼女の自宅まで急いで行くと、骨と皮だけの彼女が横たわっていた。
顔は綺麗にメイクされていて、二ヶ月前の彼女のようだった。
線香を上げ、外に出た俺にお母さんが話しかけてきた。
「この2ヶ月、本当にありがとうございました。あの子も天国で喜んでいると思います」
彼女の為に俺は、お母さんと何度も会い、彼女がどんな思いで母の愛を求めていたのかということや、現状も伝えていた。
癌だと知らされていなかった母親のショックは大きすぎて、真実を伝えると気絶してしまったほどだ。
お母さんが何を考えていたのかも聞いたが、結論は自分の娘が可愛いということに辿り着いた。
じゃ、仲直りにカラオケに行きましょうと誘い、合計で12回カラオケに行った。
歌うのが好きな2人は、カラオケに行くことで家族の絆を紡ぎ直していたのかもしれない。
始めはギクシャクしていた彼女らの関係も、お互いの目を見て話すようになった。
その後、2人は彼女のお金を使い、日本中を旅行したみたいだ。
最後の旅行は家族4人で行ったらしい。
亡くなる直前まで「母のことをよろしくお願いします」とお父さんに言い続けていた彼女。
最後にお見舞いに行った時、彼女はこんなことを言っていた。
「私って、独りで生きてなかったんですね。お母さんには幸せになって欲しい」
その笑顔はとても優しく、有名な画家が描いた絵画の様だった。
※
路上であな褒めをして三年。
心に闇のある人達の話を沢山聞いた。
この先、俺が何歳まで生きることができるのか分からないが――
必要とされる限り、この活動は続けていきたいと思う。
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「あなたをめっちゃ褒めます」
都内23区を回ってやっているが、9月は池袋駅東口を選んだ。
何故かというと、8月の終わりにこんな悲しい事件があったからだ。
【サンシャイン60の屋上から高校生が飛び降り。屋上の展望台から男性が飛び降りたと警備員が通報】
最近はいじめで自殺する学生も多い。俺の時代から自殺する学生もいただろうが、やはりいじめ方も異質になってきているようだ。
おこがましいが、少しでも路上で俺と触れ合うことで、自殺しようとしていた学生が笑顔になるきっかけ作りができればいい。そんなことを考えて池袋を選んだ。
9月になってもまだまだ暑い。平日ということもあってか、人通りがまばらだ。
いつものように画用紙に書いた「あなたをめっちゃ褒めます」を地面に置いて道行く人に微笑みかけるが、皆暑いのか通り過ぎて行った。
たまに興味を持った人がどういうことをしているのか話しかけてくれるが、信号が変われば去ってしまった。
――立地が悪かったか? でもここを通ってサンシャインに行くからな。もう少し我慢するか。
10時からござを引いて座っていたが、15時になってもお客さんはこない。
日陰もない場所でスキンヘッドの俺には、この日差しはきつい。タオルを頭に巻いてはいるが、あまりの暑さにくらくらしてきた。
一応19時まではここにいようと決め、腹ごしらえをしようと16時過ぎにコンビニを探しに場所を離れた。
「よろしくおねがいしまーす。暑いですけど元気に過ごしましょうね」
かなり巨漢の若い男性が右手に立て看板を持ち、器用に左手でビラを配っていた。かけているメガネは汗でずり落ちそうになっているが、彼は笑顔だった。
ビラ配りのバイトは大変だ。俺も18歳で東京に上京した頃にやったことがあるが、一日中立ってただビラを配るのは精神的にやられる。2日で辞めた記憶がある。
飯を買うのを止めて、しばらく彼を眺めていたが、黙ってビラを渡すのではなく、一人一人に声をかけていた。
「暑いですね」
「ご苦労様です」
「お疲れ様です」
ビラ配りなんだし、お願いしますぐらいの声かけでいいんじゃないかと思う俺に、衝撃的な彼の言葉があった。
「幸せでいて下さいね」
「生きていてくれてありがとう」
「お互い笑顔でいましょうね」
――これって宗教の勧誘か?
「暑いから水分はこまめに採って下さいね」
「杖をついて歩くその勇気に感動しました。ありがとう」
「結婚したら元気な子供を産んで下さいね」
彼は、しょうがいを持ったお婆ちゃんや、若いカップル、学生っぽい人やサラリーマンっぽい人など……。その人にぴったり合った労いの言葉をかけていた。
――あれって、俺がやってるめっちゃ褒めますの変形バージョンじゃん。彼がこの町にいるなら、俺の出番もないかもな。
彼に興味を持った俺は、マツキヨの信号を渡ったスペースで「あなたをめっちゃ褒めます」というものをやっていると告げ、名刺を渡した。
「世捨て人ってすごい名刺ですね」
彼が驚いた顔をして俺に言った。
「世を捨てるからこそ、世の中を底辺から見ることができるんですよ」
「それって究極の考えですね」
「そんなたいそうなことじゃないんですけどね。常にゼロの視点で世の中に立っていたいなって思ってるだけなんですよ。それより、ただ黙ってビラを配っている人が多いのに、貴方はその人に合った言葉をかけてあげていたでしょ?俺、そこでずっと見てたんですよ。素晴らしかった。本当に素晴らしかった。人間力を高める勉強になりました。ありがとう」
「人間力なんて、面白い言葉を使うんですね」と彼はずれているメガネをかけ直し、俺を凝視した。その目を見て思わず後ずさりをしてしまった。
――この人、ただ者じゃないな。目が清すぎる。
「僕仕事が18時に終わるので、イベントに顔出していいですか?」
「分かりました。待っていますね。貴方は自分がしているアルバイトを仕事と言うんですね。それだけでも素晴らしいと思いますよ。――バイトが終わって。そんな言い方じゃなかったでしょ?仕事って言葉は、責任を持ってやっているっていうイメージがあって、俺は好きなんですよ。だから、貴方が言った仕事って言葉が、行動と伴っているなって感じて――」
彼にお婆さんが道を尋ねた。話の途中ですいませんと謝る彼は、丁寧に彼女に道案内をした。
それにしてもすごい汗だ。白いTシャツの背中はまるでシャワーを浴びたようにビチョビチョだ。
――どうせ後で来てくれるんだし、仕事の邪魔をするのも悪いな。元の場所に戻るか。
彼に声をかけ元の場所に戻った。
18時半。
首からタオルをかけた彼が約束通り俺に会いに来てくれた。
「やっとゆっくり話せますね」俺の言葉に、嬉しそうに頷く彼の頭全体から汗が落ちた。
「むちゃくちゃ汗っかきですね」
「いやー、東京は食べ物が美味しいから」
「東京出身なんですか?」
「いえ、北海道です」
聞けば、彼は29歳だそうだ。20歳のときに上京し、ビジュアル系バンドのボーカルとしてライブ活動をしていたらしい。
今は90キロ近くあるというが、9年前は53キロだったらしい。
「これがそのときの僕なんです」
彼が見せてくれたプリクラは別人のようだった。
「今はバンド活動はしてないんですか?」俺の問いかけに「これですから」と彼はお腹の肉をつまんだ。
「僕、あと4日で田舎に帰るんです」タオルで顔を拭く彼は心なしか寂しそうだ。
バンド仲間との諍いや、バイト先での人間関係でストレスが溜まった彼は食に逃げたそうだ。ビジュアル系バンドのボーカルなのに、ぶくぶく太っていくことが更に自分を責め、パニック障害にもなってしまったらしい。
感情のないロボットのように、ただ生きる為だけに働いていたこの3年だったらしいが、小さな転機があった。それは、ファンである女性のメールだったそうだ。
――私は、貴方の歌声が好きでした。バンドは解散しても、歌うことだけは続けて下さいね。
彼は彼女のメールである決心をした。
それは、親元で暮らしたいと。
「どうして、彼女のメールで親元に帰りたいと思ったんですか?」彼に聞いた。
「僕、親父と喧嘩して東京に飛び出して、9年間一度も親父とは話したことがなかったんです。でも、この前親父が脳梗塞で倒れちゃいまして」
「亡くなったんじゃないですよね?」
「生きてはいるんですけど、植物人間みたいで……。この先どうなるか分かんないらしいです」
タオルで目頭を押さえる彼は、汗を拭くふりをして泣いているのを我慢しているようだった。「どうぞ、泣いて下さい。ここは、泣いていい場所ですから」俺の言葉にホッとしたのか、彼は大粒の涙をこぼした。
「僕思ったんです。今まで親父の前で歌ったっことがなかったなって。だから、親父が好きだった演歌を耳元で歌ってあげたい……。僕の歌で目覚めてくれたらすごく嬉しい、それが僕が唯一できることじゃないかと思ったんです」
「素晴らしい。俺はたった一人の大切な人に自分の表現が伝わらないのに、世界相手に喧嘩できないと思ってるんですよ。実は、俺も役者や大道芸、こうしたイベントや作家もやっているんです。でも売れてもないから飯も食えてないんですけどね。おまけに自分が30歳のときにバイセクシュアルだと気付いて、男ともガンガンセックスしたんですよ。当時スカパーのおっぱいちゃんねるでAV男優もやってたし――」
――やばい、軽く引いた顔してるぞ。バイとか言わないほうがよかったかな。
「今、引いたでしょ?でも俺はそうやって43歳まで生きてきたんです。そのバイになったと気付いたときに出版したエッセイではセックスのことばっか書いて全然売れなかったんですけど、あとがきにこう書いたんです。――俺の人生、失敗はいっぱいあるけど、後悔は一度もないって。迷惑かかえた人、迷惑かけられた人、すべての人に感謝です」
彼の目つきが変わった。「後悔は一度もないって断言するのってすごいと思います」
「俺思うんですよ。人には色々な生き方があって、人様に迷惑かけてないならそれでいいじゃんって。貴方がお父さんの為に歌いたいって聞いてすごく感動したし、それがもう既にたった一人の人に伝える表現じゃないですか?俺は今日家に帰ったら嫁に話しますよ。こんな凄い人がいたって。そして貴方との触れ合いを描いた作品をホムペにアップしますよ。考えてみて下さい。貴方はまず俺の心を動かしたんですよ。こんな凄い人との触れ合いを世に残したいと思わせたんですよ。それってすごくないですか?」
「僕なんかがすごいですか?」
「凄いですよ。だってビラを配りながら一人、一人に気遣いのある言葉をかけてあげていたでしょ?俺、その人達の顔を見てたんです。皆笑顔でしたよ」
「違うんです」と彼が頭をかく。何が違うのかと聞けば、もう田舎に帰るから一生懸命になっただけだと言われた。
「僕は、この仕事をけっこう長くやってきてたんですけど、ただビラを配ってたんです。でも親父のことがあって、田舎に帰ろうと決めたときに考えたんです。僕って東京で何やってたんだろうって。結局何も残せないで負け犬みたいに逃げるだけかって。せめて何か僕がいたんだって証を残したかったんです」
「それが、あの声かけ運動だったんですか?」
頷く彼のメガネが落ちた。
「俺も普段はメガネなんですけど、そこまで綺麗に落ちたことはないですよ。やばい、そのメガネのことも作品の中で書かないと」
ブログに書くのは恥ずかしいという彼に「じゃ仮名にしますから」と言い承諾をもらった。
彼は俺が韓国人の女性と結婚をしていることに興味津々のようで、色々と質問を投げかけてきた。
暫く彼と話していると、リラックスしてくれたのか、たまにタメ口で話してくれるようになった。
俺がやっている「あなたをめっちゃ褒めます」はお客さんによってその姿を変える。
例えば、セックス絡みの話をしても喜ばない人もいるだろうし、癌で亡くなった人が家族に残した感動的な手紙の話をしても、その人の親近者が今まさに癌で死にそうだという状況じゃ、気分を害されるだけだ。
その人にとって、ピンポイントで何が一番いい話なのかを判断し、話すようにしている。
板橋区編では、――リストラされたサラリーマンの男性が、自殺したのに死にきれず、半年後に再度自殺を試みた。だが彼は死ねず、逆に生かされているのではないかと思った。そして家族と飲食業をはじめ成功をした。その話をした。
江戸川区編では、――末期癌の若い女性が「最後にこんなに褒められて嬉しかったです。もうこれは必要ないですから」と財布と通帳を渡してくれた。その話をした。
練馬区編では、――乳癌で乳房のない女性が、一大決心の末アメリカに渡り、ボランティアをしているときに知り合った男性と結婚をし、幸せに暮らしている。その話をした。
俺が触れ合ってきた人達の中で、特に感動をさせて頂いた方々の話しをしているが、中には「貴方は宗教家ですか?」と質問をされることもある。そんなときは「もっと人間の器を磨きたいので勉強させて頂いているんです」と答えるようにしている。
今回出会った彼には、自分の体験談などをベースに話したが、それが功を奏した形になりかかっているのが嬉しかった。
※
俺達のやり取りを遠巻きで見ている人達も増え始めた。時間も時間だ。ビール片手に笑ってこっちを見ている若い男性もいた。
彼にこんな提案はどうだろうと思い聞いてみた。
「ここで歌ってみない?俺はダンスでコラボするから」
パントマイムを踊り出すと、中学生だろうか制服を着ている女の子数人の団体が騒ぎ出した。
彼女たちに花を作って差し出すと、その団体の中の一人の女の子が受け取ってくれた。そのまま彼女たちは去っていくが、俺は何かに引っ張られるように彼女たちを追いかけた。
花を受け取ってくれた彼女が信号で引っかかって止まった。
彼女の肩をトントンと叩く。振り返った彼女に、無言でここを見て欲しいと合図をした。
俺は自分の右手の小指を見つめた。
俺の顔を見た彼女は「えっ?何?」と両側にいる友達に助けを求めた。
自分の小指から――運命の赤い糸が貴方の小指に伸びているんだ。というようなジェスチャーをした。そして、マイムでハサミを作り彼女に手渡した。
――僕はこの出会いが運命だと思うけど、君はどう思っているかは分からない。もし僕の勘違いだと君が思うなら、このハサミで赤い糸を切って欲しい。
彼女にマイムで伝えると、二度ほど頷いて速攻で糸を切る仕草をした。友達は大爆笑。俺は左胸を触り、心臓が飛び出てきたマイムをし、その心臓が真っ二つになったとうなだれて見せた。
初めから見ていたお客さん達も拍手をする人や「ふられたんだ」とヤジを飛ばす人もいて、路上なのに温かい輪の空間が出来始めた。
長く路上でイベントをした経験がある俺には、これぐらいの温まった空間なら、次に誰かが芸をするのもしやすいというのが分かっていた。だが彼は恥ずかしそうに下を向いているだけだった。
――先陣切ってみたけど、ビジュアル系で活動してたプライドがあるのかな。
「いきなりマイムやっちゃってごめんね。運命の人だと思ったのに振られちゃったよ」彼の元に戻りそう言うと「多分中一ぐらいの子でしょ?運命の前に犯罪じゃん」と突っ込みを入れられた。「それに奥さんいるでしょ?」
「そうだった。俺には愛しい奥さんがいた」口を開け歯を出して、作ったような笑顔をすると彼は「変な人だな」と首を振った。
「僕はこんな路上でいきなり歌えないですよ。工藤さんみたいに即興で動けるのってすごいっすね」
「慣れてるからね。それに見守っている人達の目が優しかったから、やってもいいかなって判断したんだ」
「見守ってるって?」
「ほら」と指さす。「俺が座っている場所からは貴方越しに見守ってる人達が見えるんだよ」
彼を俺が座っているゴザに座ってみるかと誘い、二人で道行く人達を眺めた。
「どう?ここから見たら人の流れがよく見えるでしょ?」
「けっこう恥ずかしい。皆ガン見じゃないですか」と彼が言う。
「俺が世捨て人と名刺に書いていたのはこういうことなんだよ」
「どういうことですか?」
「ここで一番身長が低いのは俺じゃん?どんなしょうがいを持った方がいても、座っている俺の坐高から考えたら、その人達よりも目線が低いでしょ?これってね、犬がお腹を飼い主に見せるようなものなんだよ」
俺の比喩が悪かったようだ。彼はタオルで顔の汗を何度か拭き、考えるような顔になった。
「ごめん。分かりづらいこと言ったよね。簡単に言えばここに座って笑顔でい続けることは、貴方に敵意はないですよっていうことなんだよね。ゴザの上に椅子を置かないのも、直に地面に座って一番坐高を低くしたいからなんだよね」
「上から目線でずっと見られてるわけでしょ?バカにするような人もいたりするんじゃないんですか?」
「いるよ、そりゃ。でもさ、表現って暴力だと思ってるんだよね。ここにいてこんなことやってるのも、通行の邪魔になってるかもしれないし。そう考えたら、やさせて頂いてありがとうだよ。それにさ、こうして出会って話してるじゃん。これも運命だよ」
俺の小指から運命の赤い糸が伸びて、彼の小指にその糸が伸びているマイムをするが「俺はノーマルですから」と拒絶された。「工藤さん誰でも運命で繋がってるんじゃん」とさらなる突っ込み。
「俺って話しすぎて空気読めないことがあるんだけど、時間大丈夫?」彼に聞くと、実は親友を待たせているんですと言われた。
――あちゃ、またやっちゃったよ。こういうとこが俺の悪いとこなんだよな。
ゴザを畳み俺も帰るからとアピールをし、彼に急いで帰ってと促した。
「親友にいいお土産話ができました」彼が握手を求めてきた。
両手で彼の手を握り振り回した。
やっぱ工藤さんは変な人だと笑う彼は、ありがとうとも言ってくれた。
「最後に言うけど、夢を諦めて田舎に帰るのを負けだと思わないでね。貴方には立派な大義名分がある。それはお父さんに歌ってあげて目を覚まさせるっていう素晴らしい大義名分が。だから、東京から逃げると思う心がどこかにあるなら、こう思って欲しい。俺は夢破れました。でも笑顔で逃げますってね。逃げますけど何か?みたいなさ。どうせ逃げるなら笑顔で行進して、次の未来に向かって歩いていこうよ」
――失礼なこと言ってないかな? 俺の言葉で少しでも元気になってくれたらいいんだけど。
考え込んでいる彼を見て、握っている手をもっと強く握ってみた。
「こんな人も東京にいたんですね」彼は両目にいっぱいの涙を溜め込んだ。
「褒め言葉だと思っていいんだね?」俺が尋ねると、何度も頷いてくれた。
十条という駅まで帰る彼をお見送りしに、池袋駅まで向かった。
改札を通り、階段を上ろうとしている彼に、どんな言葉をかけてあげればいいのか悩んだが、やっぱりこれにした。
俺の右手の小指から運命の赤い糸が伸びて、彼の小指にその糸が伸びているマイム。
それをやってみた。
彼は俺が左手の人差し指と親指を擦るようにして伸ばしていく糸を、自分の心臓の上に届いたというような仕草をしてくれた。
一礼して去っていく彼を見て思った。
池袋にきて本当によかった。
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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学
新宿駅西口。 21時。
いつもは中野駅で幼児児童虐待反対イベント笑顔をしているが、新宿進出が俺の目標だ。
新宿には本格的な占い師もいるし、歌手や、大道芸などセミプロの表現者も多い。
俺も何度かこの場所で歌に酔い、パントマイムに口を開けて笑ったものだ。
この広い通りで俺はいつもやっている「貴方をめっちゃ褒めます」をやるのか……。 距離感がありすぎる。
中野駅の高架下は挨拶が交わせるほど通る人と近いが、さすが新宿駅。
興味ある人が、その目的の為に足を止める。そんな印象だ。
お金目当てで始めたイベントではないが、毎回お客さんがゼロというのも、チーム笑顔のメンバーのテンションが上がらないだろう。
――この立地で、俺達が必要とされるにはどうすればいいのだろうか?
ガードレールに腰掛け、暫く通り過ぎる人を眺めていた。
――拡声器でイベントの主旨を話すか? いや、幼児児童虐待反対の声を上げ過ぎると宗教チックなノリだと思われて引かれるかも。パントマイムで家族の大切さを表現するか? いや、明かりもないこんな場所でやったら酔っ払いに喧嘩を売られて終わりかも。
昼間にイベントをやったとしても、警官に止められてすぐ終わりかもしれない。
昔、この場所で正座をして家族の殺し合いを悲しんでるって画用紙に書いた旗を掲げたことはあるが、あれは運がよかっただけだろう。
路上の使用許可を取りたいが、俺達のイベントは国的にはあまり受け入れられないようだ。審査に時間がかかればそれだけ街に立てない。
――一体どうすればいいんだ? 考えてもしょうがない。まずパントマイムだ!
俺はパントマイムで家族の日常を分かりやすく演じた。
誰も止まらない。
クリスマス近くで浮かれたカップルは笑って通り過ぎるが、師走で忙しいのか通り過ぎる人は横目で見るだけだった。
不景気だし、皆こんなマイムを見るより仕事をするか用事を優先させる為に目的地に急ぐだろう。
中野駅では拍手喝采で幾重にも人だかりができたのに、やっぱり新宿はちゃんとした戦略を考えないと無理みたいだ。
パントマイムをする俺の顔から笑顔が消えた……。
タバコを吸おうとかなり広めな喫煙所に行った。――俺、新宿に負けた。敗北感で居た堪れない気持ちだった。
「親が子を殺してどうなるんだよ」
端にいる大学生風な男性が仲間3人と幼児児童虐待について話しているようだ。彼らの傍に行き聞き耳を立てた。
「親が子を殺すようなニュースってうんざりだよ」
「僕は子が親を殺すのが信じられない」
「何かさ、変な事件ばっかで日本も外国みたいになってきたな」
へこんでいる俺の心に火がついた。
「いきなりごめんね。俺幼児児童虐待反対イベント笑顔を主宰している工藤興市といいます。今の話って俺も参加していいですかね?」
いきなり話しかけた俺に彼らは笑顔で応えてくれた。
聞けば彼らは教師や、保育師、介護師などを目指す若者らしい。
ブログを通じて知り合った皆で20人ほどのオフ会を開き飲んでいたそうだ。その帰りに4人でここでタバコを吸っていたという。
へこんでいたせいもあってか、逆に心に火がついた俺の勢いは止まらない。今まで10回やったイベントのことを話しながら、親にタバコを無数に押し当てられた女性の話や、虐待が元で風俗嬢になった女性の話などをして周りの目線を釘付けにした。
「それで、その子はどうなった?」
5、60代だろうか、サラリーマンが聞いてきた。
「その男性は成長して親を許したのか?」
奥さんと子供を連れたお父さんが聞いてきた。
「ほんと、信じられないわ。DVって旦那と別れても精神的な傷は残るの。私も経験者だからよく分かるわ」
着物を着ている夜の商売のママらしい女性が涙ぐんだ。
俺の熱は加速し、命懸けで家族を守った感動話も交えながら、家族の意味、命の大切さを延々と話し続けた。気づけば喫煙所の人達以外にも、俺の声の大きさに興味を持った人達が集まり出した。
22半時。
パントマイムや漫談、ブレイクダンスや歌。自分ができる全ての芸を使って家族の大切さを訴えかけてみた。
もう俺に迷いはなかった。俺を中心に幾重にも人だかりができていたからだ。
俺はただ演じるだけじゃなく、MCのように立ち止まった方々と会話形式で家族の話をしてもらったりした。
――立地?季節?そんなもの関係ねー! 己の信念と情熱さえあれば、どこでもイベントは開けるじゃん!
大方の話しも終わり帰ろうとした俺は、40人ぐらいの方々に頭を下げてお礼をした。温かい拍手の中で涙ぐんでしまった。
帰り際、一番端にいた17代だという女の子が俺の裾を持って言った。
「うち、明日にでも家出しようかと思ってたの。でもちゃんと親と話してみる」
抱きしめる俺に彼女は驚きながらも抱きしめ返してくれた。
あれだけ人々との距離感を気にしていたのが嘘のようだ。
イベントをやってお客さんが来なければどうしよう? そんなこと考えなくていい。もじもじしてこっちに来たそうな人に歩み寄りこう言えばいいのだ。
「よかったら話してみませんか?」
必要としてくれている人は必ずいる。それが1人のお客さんでも、何かしら温かいものを伝えることができれば、ここでやるイベントは成功だ。
意気揚々と改札を抜けようとした俺は、信じられない光景を見た。
最後にもう一度一礼しようと振り返ると、俺が演じていた場所から離れないでずっと手を振り見送っているあの40人ぐらいの方々がいたのだ。
「よかったよ~」
「来年また来るよ!」
「おじさん熱すぎ~」
「泣いたっす!」
皆笑顔だった。
一礼して走り去った俺は、人の優しさに感動してトイレの中で泣いた。
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――2人目だ。誰だ? あれ?
深夜の街頭に照らされた人物は、一緒に飲んでいた仲間の一人義晴だった。
「お前の様子がおかしいと思って何度も電話してたんだぞ!こんな所で何やってんだよ!酔って言ってたろ?また新宿でやったみたいに正座するって。探し回ったからこんなに時間がかかったよ!お前、俺たちと別れてからずっとここにいるんだろ?おい、もう止めろ!死ぬぞ?」
彼は俺を抱えようとするがそれを拒否した。
「頼む。あと998人の人を待たせてくれ」
信じられないといった表情をする彼は電話で誰かと話し叫んでいるようだった。俺には彼の顔が歪んで見えた。
「ちょっと待ってろよ。すぐ帰ってくるからな」
彼が携帯で誰かと話しながら駅方面に走って行った。
その様子を眺めていた俺はあることを思い出していた。
小学4年のときに、夕方遊ぶ約束をした友達を学校の校舎裏で待っていた。
1時間。2時間。いくら待っても誰も来ない。雨が降り出し辺りが暗くなってきた。
結局夜の7時ぐらいまで待っていたが友達は来ずとぼとぼ歩いて家に帰った。
後で聞いたら俺との約束を忘れた2人はゲームセンターで遊んでいたらしい。
感情の起伏が激しかった俺は、次の日その2人の友達に喧嘩を売った。
そして、彼らは俺を避けるようになった。
――俺って何も変わってないな。自分の思い通りにならないとすぐ癇癪を起こす。あの時のままだ。せっかく義晴が俺を探し回ってここまで来てくれたのに、俺はまだ正座を続けたいなんて……。呆れて何処かに行ってしまっても仕方ない。後で謝ろう。
もう体中の水分なんて残ってないだろうと思っていたが、涙だけは出るようだ。彼に対して感謝の気持ちと申し訳なさで涙が溢れた。――いかん、いかん。泣いてたら益々通る人が気味悪がるだろ。笑顔。笑顔だぞ。
自分に暗示をかけ俯き加減だった顔を上げ無理に頬の筋肉を上に、上に持っていってみた。――歯を見せろ。もっと笑顔だ。
足の感覚が麻痺しても尿意だけは頻繁に襲ってきた。おしっこを漏らしでもしたら、声なんてかけて貰えないだろう。膀胱が破裂する勢いのまま笑顔で通る人を目で追った。
深夜4時半を過ぎたが早朝の荷物を卸す業者のトラックしか通らない。
――死。まさか。でも俺やばくねーか? 俺の下半身はどこに行ったんだ? いつまでこんなことやるんだ。こんなことに意味があるのか? 意味なんてあるのか?
自問自答を何度も繰り返し腹の痛さに堪えた。
――アソコも立たなくなるんじゃないのか?
一瞬空を見上げた。韓国にいる遠距離恋愛中の恋人は、男性機能が働かなくなった俺でも結婚してくれるのだろうか?
――許せ。こんなアホが恋人でごめんな。思わず韓国語で空に向かって謝った。
「おーい!」義晴だ。
――あいつの後ろにいるのは誰だ? 右隣にいるのも知らない人だな。あれ、後ろを走ってる連中は寝巻きじゃねーか?
義晴を先頭に10人近くの人間が走ってくる。目を細めてその様子を伺った。
「あと998人がこんなこと止めてって言ったら立ってくれるんだよな?」
意識が飛びそうで彼が何を言ってるのか分からない。バシッ! いきなり殴られた。
「いて、何だよ!」
「フラフラしてんじゃねーよ!せっかくここまで頑張ったんだろうが!じゃ目標達成しろよ!俺はお前の横で正座なんかしねー!でもな、俺にも協力できることがあるんだよ!おい、お前からあの言葉言え」
どう見ても寝起きにしか見えない眉毛のないキャバ嬢みたいな若い女の子が言った。
「もう止めなよ。よしりんから起こされたけど、マジびっくりだよ。初め嘘かと思ったもん」
一列になった人並みは順番に俺に声をかけてくれた。バンドマンだろうか、顔中にピアスをしている男性が言った。
「俺も渋谷で飲んでたからタイミングいいけど、マジありえないっすよ」
泣いている子供に乳を与えながら困った顔をしている主婦は首を何度も横に振った。
「馬鹿じゃないの?でも素敵」
10人の面識のない人達が声をかけてくれた。義晴は1人々が声をかけたらバンザイを繰り返した。
「義晴これって――」
「俺にできることがあるって言っただろうが。族時代の仲間は30人ぐらい来るからよ。それにこれだけじゃねーんだよ。おい、皆携帯出せ。どうよ?一斉送信で何百人にもメールしたんだよ。もうこんなこと止めてって言ってくれってな」
「えっ?」
「おっしゃ!カウント開始じゃ!メールでも止めて欲しいって言えば1人だよな?それでいいよな?」
聞けば、彼はここにいる10人の仲間にもメールで俺のやっていることを伝えて欲しいと土下座をして頼み、何十人にもメールをして貰ったらしい。泣きながら俺のしている行いを話す彼に胸を打たれた皆は、夜型人間を中心にメールをしてくれたそうだ。10人の人達が携帯を俺に見せた。
「やめろ!」
「アホか。止めろ」
「眠いのにー。取りあえず止めて」
中にはブログでコメントを募集する人もいて、かなりの「止めて」を頂いた。
彼の友達が友達に伝え、更にその友達が知り合いに伝える……。
賛同してくれた全国の輪が俺に勇気をくれた。
泣いても、泣いても、泣き足りない。俺は笑顔になろうと一生懸命頬の筋肉を上にした。
人通りのない一角に、義晴の族時代の仲間も到着し、まるでシークレットライブのように俺の周りに人が集まった。
皆が声をかけてくれて、携帯で「止めて」の受信メールを見せてくれた。
6時を過ぎた頃には60人近く集まり、その中にはネットでブログを見たという出勤前のサラリーマンもいた。
「今何人目だ?」
彼が大声で叫ぶ。彼の補佐をし人数の集計していた元特攻隊長だと言っていた男性が答えた。
「996人っす!」
周りからどよめきが起こった。皆が携帯を見せ合いながら、メールが来ていないか確認し俺の目標に賛同してくれた。
皆の姿を見て俺は思った。
――ここに座ってよかった。意味を求めた答えがここにあったじゃん。人が人を思い遣る心。最高じゃん!
言葉にならない俺は、目を閉じ皆の気持ちに心から感謝をした。
「こんなことするのはどうかと思うけど、職務を離れて対個人としては尊敬に値しますよ」
見上げると、記念すべき1人目のあの警察官が私服でいた。彼の後ろには3人の男性も。「止めて」メールが新着で17件入った。
義晴が花壇に乗り叫んだ。「1000人越えだ!」
「義晴、トイレ」
「分かった!おう、野郎共、神輿を担げー!」
まるでお祭りの様に俺を担ぐ皆はわっしょいを繰り返した。それを見守る皆は万歳三唱をしている。その音は渋谷の街一角に響き渡った。
2週間後。
どうにか体調も復活した俺は、改めて義晴にお礼が言いたくて電話をした。
彼は体を気遣ってくれ、あのとき集まってきてくれた方々の自宅に一軒々挨拶に回ってくれたそうだ。
――待てよ、東京に出張中だと言っていたサラリーマンの人もいたのに。
彼にそのことを聞くと、わざわざ九州まで挨拶しに行ってくれららしいのだ。
「ちょうど本場の博多ラーメンを食ってみたかったからいい旅行だったよ」彼はそう言ってくれるが、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
電話を切る間際に彼は言った。
「ガンガン行けよ。俺にも出来ることがあるんだからよ。お前がガンガン行ったらフォローしてやるよ」
携帯を持ったまま暫く泣いた後、あの日の渋谷での出来事を思い出してみた。
俺はやっぱり偽善者だ。
偽善者。
いつか偽が取れて善者になる日が来るまで。
命懸けで己と戦うと決めた。
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