俺は2014年の現時点で45歳だ。
長いこと芸事をしてきたが、それでは飯が食えず、一日中バイトばかりしてきた。
だが、このご時世、45歳で免許や資格も持っていない俺に働く先は少ない。
俺が大変なように、グレーな世界で生きてきた同年代の女性もまた大変な時代なようだ。
今回の登場人物は、45歳の慶子さん(仮名)だ。彼女は首にまで刺青を入れている、極のM嬢だ。
長いこと某所のSMクラブでバイトをしていたが、店が潰れ職を失った。
他の店に移ろうと思った彼女だが、その地域では若くて太っているM嬢を募集している店が多いらしい。他の地域でも彼女の容姿では受け入れられないとのことだった。
彼女は身長も高く、細身でロングの黒髪。暫くは熟女パブやフェチバーでバイトしていたらしい。
彼女はまたSMクラブの仕事を探した。年齢的なものが邪魔をし仕事先も決まらないままの彼女は考え始めた。
――私の人生これでいいのだろうか?
両親は亡くなって兄妹もいない。結婚もしていないから独りぼっちだ。捨て猫を拾ってきては家で飼いだしたのが10年前。今では猫も38匹いるらしい。
猫の食事代だけでも大変なのに、自分の生活費を入れたら、熟女パブやフェチバーでのバイトだけではやっていけない。
彼女は決断を下した。
それは、M嬢から女王様になろうということだった。
※
「――話の内容は分かりました。それで、女王様になってどれぐらいなんですか?」
知り合いに紹介され彼女に会いに行ったが、物静かで笑顔が素敵な女性だった。
それにしても見事な刺青だ。全身に掘っているという刺青は400万近くかかって彫り続けているらしく、もう5年も完成していないという。
少し見せて下さいと彼女の腕を強引に掴んでみた。そしてシャツの袖をまくった。
恥ずかしそうにしながらも俺の行為を受け入れる彼女はどう見てもMだ。それに歳の割には声も幼い。今までご主人様達に調教されてきた彼女が、本当に女王様になれるのだろうか? 今やった失礼な行為はあなたのM度を試す為ですと謝れば、興奮したと返してきた。
「興奮したって、強引に腕を掴まれたからですか?」頷く彼女。「着ている服を破られて前戯なしにバックから犯されるのが好きなので」と言いながら彼女が一瞬メスのようなエロい目をした。
俺もエロスの世界で生きてきた人間だ。話していればだいたい、その人間がどれぐらいエロいのかが分かる。慶子さんは相当な変態だと思った。それもかなりのM嬢。
自分が感じたままを話すと、彼女がハンカチを取り出し目頭に当てた。「M嬢が女王様になるのがどれぐらい大変なのか分かりますか?」
聞けば、女王様になって1年の彼女は、ストレスで10円禿げができてしまったそうだ。
お金持ちになればなるほど、変態が多いと嘆く彼女は、男なんて屑だと言い切った。
その仕事内容とは――
亀甲縛りで肛門を苛め、ロウソクを垂らしたり、中には赤ちゃんプレイが好きな男には母親の振りをして折檻をするなど……。
ブログで書けない内容のオンパレードだ。ハードなプレイを好む男達は、公務員、医者、弁護士、政治家、大物芸能人――名前を聞いて驚くぐらいの大物揃いだった。
彼女は女王様になる為に、その道の大御所にレクチャーを受けているらしい。そこには、不況でM嬢から女王様に転職をしている40歳~60歳の女性が通っているグレーの学校だそうだ。
声の出し方、立ち振る舞い、衣装の選び方、守秘義務のことなど……。
彼女の話では、その大御所はドイツでプレイをしていたビックマザーと呼ばれている87歳の日本人のお婆ちゃんらしい。
※
彼女との話が面白すぎて、今の日本の裏社会ではこんなことが繰り広げられているのかと驚いたと同時にこうも思った。
――皆、自分の生活スタイルや家族を守ろうと必死なんだな。
40歳の女性は、旦那がリストラに遭い、仕方なく家族に内緒で働いていた。
60代のある女性は、20歳年下の盲目の男性との結婚費用を捻出しようと、韓国で整形までして激務に堪えていた。
性同一性障害の26歳の女性は、金玉は取ったが、竿をモロッコで取りたいので、竿を肛門の方に引っ張りガムテープで留めて働いていた。
そして彼女も、愛すべき猫の食事代を稼ごうと必死だった。
法に触れるのは犯罪だが、人に迷惑をかけずに一生懸命働いている彼女達。
彼女と別れた後に、生きるってどういうことなんだろうと考えてしまった。
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テーマ:エッセイ - ジャンル:小説・文学
劇場から借りてきたサンタの格好をする僕は、ドキドキしていた。
サンタになって枕元にプレゼントを置くなんて、自分でも驚いている。
明日それを見付けた子供達は、どんな表情をするのだろう?
人の為に何かをしてあげるということは、結果が欲しいものなんだと思った。喜んでもらえるという結果が。
静かにドアを開けた。
声が出そうなぐらい驚いた。目の前にはもう一人のサンタがいたのだ。
顔の赤いサンタ。谷さんだった。
「谷さん、何やってんの?」
「お前こそ何だよその格好」
「いや、すいません」
「今何時になった?」
「もうすぐ24時です」
「そっか。よし、行くぞ」
やはり劇場から借りてきた、サンタの衣裳を着た谷さんは、ノ-スリ-ブのサンタの衣裳の為、刺青がモロに出ていて怖かった。これじゃヤクザの出入りだ。
彼女はソロリソロリと歩き、自分の白い袋に手を伸ばした。
ドスかピストルでも出てくるのかと思ったが可愛い紙包みのプレゼントが出てきた。
ゆっくり子供達が寝ている部屋のドアを開けた。また声が出そうになった。そこには、サンタの格好をしたKさんが今まさに長女のSちゃんの枕元に、プレゼントを置こうとしていたのだ。
3人共一瞬動きが止まった。何とかお互いを理解した僕達は、無言でプレゼントを配り終えた。
「びっくりしたよ。谷さんそんなサンタいないよ」Kさんが涙を流しながら笑っている。
「普通のサンタの衣裳がなくてさ、お前が持って帰ってたんだな?」谷さんが凄んで僕を見た。
サンタの格好をしたまま、また改めて飲み直した僕達は、一晩中どんちゃん騒ぎをした。
僕の人生勉強3日目が本当に終わった。
4日目。
この町を離れる寂しさと――こんな状態で東京に帰ってまた戦えるのか? 人の温かさを受け入れてしまった今、どう東京でまた生活していけばいいのだろう? 期待よりも、不安の方が強かった。
目が覚めた僕は、子供達がプレゼントに喜ぶ声を聞きながら複雑な気持ちだった。
――Kさんは朝食の用意か。あれ、谷さんがいない。そうか、昨日言ってたな。別れは苦手だって。
無造作に転がっている空の一生瓶を見つめながら、僕はありがとうと呟いた。
今日の朝食は豪華だ。最後だから沢山食べなさいと言ってくれたKさんの真心に胸が熱くなった。
子供達は別れというものを、あまり理解していないようだ。
次女のRちゃんだけは、朝から機嫌が悪い。言葉にはしないが僕との別れを意識しているのはよく分かった。
子供部屋から出てこないRちゃんを、僕はどうすることもできなかった。
いくら優しい言葉を掛けても、それは全部嘘になる。ここから去る事実だけは変えようがない。せっかくの豪華な料理も、あまり喉を通らなかった。
Kさんは「あの子繊細なのよ」と言って僕を気遣ってくれるが、その言葉を聞いて余計自分自身を責めてしまった。
玄関で子供達が見送ってくれた。
赤い長靴を履いたRちゃんはお辞儀して「バイバイ。パパ」と言った。
逃げるように走り去っていくRちゃんを見ながら、僕は何も言えなかった。
朝から降っていた雪も昼すぎには止み、駅まで送ってくれるというKさんとタクシ-に乗った。雪が凍り、でこぼこになった道をゆっくり走るタクシー。車内ではKさんが陽気に喋り続けた。
「ブッ」
「運転手さん違いますよ。僕がおならしたんじゃないんですからね?」
笑いを堪えているKさん。最後の最後までこの人には振り回されっぱなしだ。
プラットホ-ムには、2日ぶりの太陽が光を射し雪がキラキラ光っていた。長い階段を上るKさんは息を切らしている。
「Kさん、そんなに無理しなくていいですよ。腰、大丈夫?」
「大丈夫。クリスマスだから」
「クリスマスだからの意味がよく分からないけど。すいません、お土産もこんなに買ってもらっちゃって」
「人付き合いは大切だから、アパ-トの隣の人達に、ちゃんと配りなさいよ」
「本当にお世話になりました。僕、うまく言えないけど、Kさんと会えて本当によかったです」
「何湿っぽい事言ってんのよ」
元気に言うわりには、Kさんの瞼には涙が溢れていた。
僕は最後まで素直じゃない。泣きたいのに、やっぱり泣けない。感情を素直に表すKさんが羨ましかった。
ゆっくりプラットホ-ムに入ってくる一両編成の電車は、僕をまた戦いの町、東京に連れ戻してくれる。発車時刻を告げる音がなり、僕の新しい未来が始まった。
Kさんは上着を脱ぎ、振り回しながら叫んでいる。「ありがとう!」
どんどん小さくなっていくKさんは、最後まで上着を振り続けた。
胸が締め付けられる思いのまま、座席についた僕は、隣に座っているお婆さんに軽く頭を下げた。
少ない乗客。立っている人はいない。東京の電車とはえらい違いだ。
ボーっと窓の外の風景を見ている僕の肩を、ポンポンと叩くお婆さん。お婆さんは無言でみかんを差し出した。
怪訝に思った僕は、愛想笑いをしながらその場をやり過ごそうとした。それでもお婆さんは皺くちゃになった笑顔で、口をパクパクさせながらみかんを差し出した。
ハッとした。この人は喋れないのだ。
――Kさんだったらこんな時どうするんだろう?
今別れたばかりなのに、懐かしさで目頭が熱くなった。僕はみかんを受け取りながら言った。
「ありがとう」
――ねぇ、Kさん。今僕素直にありがとうって言えたよ。Kさん達のお陰だね。
僕の人生勉強4日目は、幸せな気持ちで終了した。
了
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玄関は賑やかだった。
「お帰り」と「メリ-クリスマス」の言葉が入り乱れた。
手作りの部屋の装飾。次男のL君は「唐揚げ、唐揚げ!」と騒いでいる。一生瓶を片手に兄弟船を歌う谷さん。鳥のかしわを口一杯に頬張る長女のSちゃん。「パパ、パパ」とはしゃぐ次女のRちゃん。腰を気遣いながらも、手拍子で音頭を取るKさん。
よく考えてみたら、皆血が繋がっていない。でもこの温かな空間は、間違いなく家族というものだと感じた。
今になって言えることだが――グル-プホ-ムというものがある。未来型の老人ホ-ムなのだが、少数の軽度の認知症のお年寄りと、職員が共に料理を作ったり、旅行に行ったりと、一方的に介護するという段階から、少し上の一緒に何か共通目的を持ち、実践していくという信念の元、国が実践したのがグル-プホ-ムだ。
ホ-ム長のNさんと知り合いだということもあり、何度か見学に行かせてもらったが、僕が働いていた特別養護老人ホ-ムとは、やはり形態が変わっていた。
作業的な違いは置いといて、一番に考えたのは、家族ってなんだろう? ということだった。
確かに疑似家族なのだろうが、そこには温かさがあった。古き良き日本の風景。助け合いながら、一緒に生きていく。
現実の現代の家族象ってなんだろう? 日本国民全てがそうではないが、嫌なニュースが多い。
親が子を殺し、子が親を殺す事件。まったくありえない話だ。
その過程には様々な事情があるのだろうが、あまりにも無茶苦茶すぎる事件が多発している。
普通でいることの素晴らしさを、僕達は忘れてしまったのではないだろうか? 僕は今、劇団の仲間と一緒に住んでいる。これも僕の人生でまたありえなかった経験なのだが。
同棲は何回もしてきた。勿論異性と。しかし今こうして同性と暮らしてしても、そこには温かさがある。お互いを気遣い、お互いの才能を尊敬し、共に共通の目的意識を持ち生活している。
これはグル-プホ-ムの経営理念と近いものがある。
居酒屋のバイトをしていた時に、一人のアルバイトの男の子の言った言葉。
「よく考えてみたら、こんな長いバイト時間を一緒に働いてたら、家族よりも長い時間一緒にいるってことですよね。だから仲間を大切にしたいですね」
疑似家族。響きは悪いが、その内容によっては、本物の家族以上になる時があるのだ……。
ベロベロに酔った谷さんが裸で寝ている。
それにしてもすごい刺青だ。鯉と龍が赤子を守っている。Kさんに聞くと、若い時のやんちゃで、子供が産めない体になってしまったそうだ。
その気持ちの反動なのだろうか、見事な刺青だ。
でも老いていくというのは、やはり現実を色濃く映し出してしまう。ヨボヨボの体の刺青というのは、悲しいものだ。
張りがあった若い時なら、印象も違ったのだろうが、気持ちよさそうに寝ている少女の様な谷さんの寝顔と刺青とのギャップに、人生というものをまざまざと感じさせられた。僕の人生勉強3日目の夜は深々と更けていった……。
いや、実はまだ3日目を終わらせる訳にはいかない。僕にはやることがあるのだ。
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台湾人留学生の張さん(仮名)二十一歳は、一年付き合っている彼氏と遠距離恋愛中だ。
彼女は、日本文化を勉強をして、母国に帰ったら貿易関係の仕事がしたいそうだ。
アメリカ人の友達から彼女のことを聞き、会いに行った。
日本のアニメが大好きで、よくコスプレをしているという彼女は、人形のような可愛さがあった。
日本語が得意な彼女に、俺のことを話すと興味を持ってくれた。
「――メアリーが言っていたのは嘘じゃないですよ。私達はお互いを見て気持ちよくなるタイプなんです」
彼女らはネットを使って、性器の画像を送りあっているらしい。
それを見ながら自慰行為を繰り返しているらしいのだ。
ネット文化は怖い所がある。よく芸能人のエッチ画像や動画などが流出してしまう事件も多発している。その心配はないのかと聞けば、お互いのホームページに画像を送りあっているので、セキュリティーは万全ということだった。それに、こんな画像が流出しても平気だとも。
質問をしてみた。「どうせオナニーするなら、動画でオナニーする方が気持ちよくない?何で画像なの?」
このシリーズでは、相互オナニーが好きなカップルも登場したが、彼女らは更に変わった付き合い方をしていた。
一言でいえば、彼女は精子マニアとでいうのだろうか、そんな感じだ。
彼女は彼に送ってもらった、顕微鏡で拡大した精子の画像を見て激しいオーガズムを感じるということだった。
彼は、そこまでのマニアではなかったらしいが、彼女の性癖を受け入れそれを自分の性癖に変化させていったみたいだ。
彼はつい最近、高価な顕微鏡を購入したという。
「自分の精子を顕微鏡で見てると、生命の神秘を実感できるんです。この精子を彼女に注いで子供を作りたいです」
彼はそんなことを言っているらしい。
意地悪な質問をしてみた。「彼以外の精子の画像を見ても興奮するの?」
彼女はアメリカ生活をしていたこともあるせいか、オーバーアクションで俺の言葉を否定した。
「彼以外の精子なんて興味ないですよ。私の畑を豊かにしてくれるのはあの人の種だけなんだから」
畑や種という表現は古いが、若い女性が言うのがどうも新鮮で、拍手で称えてみた。
彼女が言った。
「今日の取材は日記で書くの?」
まず書いたものを送るから、それを読んで嫌だったら掲載不可の返事をして欲しいと言うと、実名で書いてと笑われた。
「私は彼を愛してるから、全世界に私を否定されても、私は私で生きる自信があるんです」
手を振って去っていく彼女にまた男性が声をかけた。
取材中に、彼女が着ていたコスプレ――鬼龍院皐月の衣装はクオリティーが高かったのか、何度も写メを撮らせていた経緯があった。
写メを撮らせている彼女のポーズが決まっている。
普段からこんな状況になっているのだろう。
秋葉原駅に向かう彼女は、改札近くで振り返りお辞儀をしてくれた。
そのお辞儀は、まるで武士のように潔いお辞儀に見えた。
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3日目。
あまりに寒くて、そして重くて目が覚めた。
家自体古いから、隙間風が入っても仕様がないけど、ありえない格好で寝ている。よく肉布団という言葉があるが、まさにこれがその状態だろう。6畳の部屋に、皆で一緒に寝ているのだから。
もともと僕は一人で寝るのが好きな方で、一緒に誰かと寝るというのは苦手だった。
しかし僕の上には次男のL君が抱きついて眠っている。それも逆さまで。カエルみたいに。
起きたら目の前にお尻があった。彼からしてみれば、僕は完璧に敷き布団か、抱き枕だ。
いつのまにこの部屋に入ってきたのだろうKさんまでもが、僕に抱きついて眠っていた。
抱きつくというよりこれはもう、ヘッドロックだ。
長女のSちゃんはそのKさんに抱きつき、何故か次女のRちゃんは、Kさんとは反対側で、僕に抱きつきながらも起きていて、僕の顔をじっーと見ていた。それに気付いて、驚いた僕は「やぁ、どうも」と訳の分からない言葉を発してしまった。
至上最悪の目覚めだった。でも心のどこかで、もう少しこのままでもいいと思う自分もいた。
いつものうるさい朝食前。また皆が僕を見て笑っていた。
――はいはい、また落書きでしょ。
進んで洗面所に行こうとする僕を見て、Kさんだけは顔を赤らめていた。
不思議に思った僕は、鏡を見て笑えなくなった。僕のおでこには太い字で「パパ」と書かれていたのだ。次女のRちゃんが書いたらしいが、リアルな言葉に戸惑った。
――ちょっと! これ油性マジックじゃん!
※
「ゼェ、ゼェ、サンタ」
「はい!」
「パパ、後この紐で留めて」
「だから、谷さんパパじゃないですから」
病気で休んでいた谷さんというおばさんが復活したのはいいが、彼女が僕を名前で呼ばず、パパと呼ぶのでまいった。
「ゼェ、ゼェ、早く」Kさんが怒っている。「はい、すいません!」すぐさまサンタの衣装を着させてあげた。
クリスマスイブ。
今日はクリスマス特別公演と名打って、慌ただしくしている。
やはり今日も僕は袖でスタッフとして手伝うことになってしまった。
谷さんから支持を受けているのだが、薄らと残ってしまった、おでこに書かれたパパを気に入ったらしく1日中そう呼ばれていた。
照明さん、音響さん、支配人、もぎりの爺さんまでも、僕をパパと呼んだ。Kさんがちょっと嬉しそうなのが怖かった。
特別公演といっても、他から有名なゲストを呼ぶ訳でもなく相変わらずまばらな客席。
昨日と変わらない状況の中で、Kさんだけは意気揚揚としていた。クリスマスというものに、何か深い思い入れでもあるのだろうか? 昨日よりも激しい表現。
――ちょっと。腰押さえたでしょ? 変な動きしたよ。顔付き変わってきたんだけど。
谷さんもそれは感じたらしく、袖の僕達は暗闇の中無言でKさんを待った。
――早く、早く、帰ってきて……。
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