スキンヘッドの男性がゴザの上に座り画用紙に書いた文字を通行人に見せていた。そこには「あなたをめっちゃ褒めます。一時間」と書かれてあった。
その男性の右隣には手相を見る占い師、左隣にはタロットカードで占う占い師が並んでいた。
更に「あなたを見て一文字の漢字で表現します」という書道家らしき男性もいたし「あなたの似顔絵を書きます」というような絵描きの女性も並んでいた。
横一列に並んでいる空間に、様々な――アーティストというのだろうか、僕から見たら奇妙な人達が座っていた。
バイトに遅れそうだったので、足を止めることはなく彼らの前を通り過ぎたが、スキンヘッドの男性の笑顔とあのフレーズは心に残った。
一時間も人に褒められたことなどない。いや、不器用な僕は何をやっても呑み込みが遅い。褒められたこと自体少ない。一度でいいから思いっきり褒められてみたい。その願望が今日という日になった。彼らが今日もいればの話だが。
ラーメン屋のバイトで日曜日が休めるのも滅多にないことだ。昨日の深夜に茹で麺機が故障し、無理を言って業者に来てもらったらしい。だが修理するまでに時間がかかるということで、急遽店自体が休みになってしまった。
今月はバイトを頑張ろうと思っていた矢先に、いきなりの休みはきついが、しょうがない。久々の日曜に何をしようかと悩んだが、思い当たることが何もなかった。岡山の田舎から東京に上京して二年。人見知りの僕に彼女がいるわけでもなく、友達すらいない。
せっかくの日曜だから出かけたいが金もない。最終的に出た結論は、あの集団の見学だった。
※
電車を乗り継ぎ新宿へ向かった。駅前に着くと、至る所でクリスマスという文字を見つけた。僕の嫌いなイベント第一位のイブがまたやってくる。
そのうち駅前もイルミネーションで覆い尽くされ、カップルが愛を確かめ合う憩いの場に変わるのだろう。遅番でバイトに向かう途中にいちゃいちゃしたカップルを見ながら何度――お前ら早く別れて不幸になれ。そう念じたことだろうか。
どうして僕に彼女ができないのか本気で悩んだことがあるが、この人見知りの性格が原因ではなく、イケメンじゃないからだと悟ったとき、努力して女性に好かれようとするのは止めた。十四歳だった僕には悲しい選択だった。
自分の感情を表に出さずに生きた方が楽なんだと気付いたのもあの頃かもしれない。今までそんな生き方で過ごしてきた僕に転機があったのは三ヶ月前だ。
店にもやしを配達に来る業者さんが変わった。今までは無口なおじさんだったけど、今度の業者さんは明るい感じのおばさんといった印象だった。名前は倉木さん。四十三歳のバツイチで子供が二人いるそうだ。
昔から年上好きだった僕には、彼女のフェロモンに圧倒させられた。モロタイプだった。始めはただ大人の女性とエッチがしたいだけなのかと思っていた。でも、どうやらこの感情はそうではなかった。
彼女と付き合いたい。できれば、結婚したい。などと思うようになった。倉木さんの子供は僕と歳が近いし、こんなガキの僕と結婚なんて有り得ない話しかもしれないけど、初めて理想的な女性に巡り合った僕は舞い上がってしまった。
シャイな自分を封印し、彼女に積極的に話しかけたり、ジュースやお菓子などを買ってはプレゼントした。一週間前は彼女の誕生日だったということで、花束も渡した。
すごく喜んでくれた彼女は「どうしてこんなおばさんに優しくしてくれるの?」と質問してきたが、そこで「あなたが好きなんです」と言うことができなかった。
ここぞという所で決めれなかった僕は、自分の性格を恨んだ。どうにか自分自身を変えたいと思っていた矢先、あの集団に巡り合ったのは運命かもしれない。
あのスキンヘッドの男に褒められることで、自分が変わりそうな予感がしたのだ。
新宿までやってはきたものの、彼らがいるという確信はなかった。先週彼らが座っていた場所に行ってみると、更に人数が増えたような彼らが陣取っていた。
彼らがいたことを確認して駅前に戻った。いざとなるとスキンヘッドの男性の前に腰を降ろすのが怖くなった。
――もし、貴方には褒める所がありません。そんなことを言われたらどうしよう?
アルタ前の喫煙所で煙草を三本吸った。どうせここまで来たのだから腹を括ろうと決め彼らの元に向かった。

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