【3】
幼児・児童虐待イベントでの俺のコーナー「あなたをめっちゃ褒めます」ここでは、俺が実際触れ合った方々を書いたエッセイの話を元に、笑顔でいるということはどういうことなのかを話し合っている。心の闇が深い人も多く、何を言ってあげればいいのか悩み苦しむことも度々だ。
「レイプされて子供を身籠り、その子供を下したが子供が産めなくなった」「父親に犯されてリストカッターになった」「元人殺しのヤクザだが、改心して生き直したいが、仕事がない」「外国人だが日本の閉鎖的な国の体質に肌が合わない。どうにかならないか?」「中学の先生をしているが、モンスターペアレントでうつ病になった」「肺癌を宣告され犯罪を犯したくてどうしようもない」
受けきれないお悩み相談にめっちゃ褒めますの看板を下そうかとも思った。究極に落ち込んでいる人間を褒めるなんて俺には荷が重すぎる。だが、わざわざ地方からこのイベント目的で来て下さる方もいる。どんな人が遊びに来てくれても希望の道を見つけるまでとことん話し合うのを大切にするのと同時に、触れ合いレポートと名付けて書き続けているエッセイの中から、いくつかの作品をまとめて準備し、資料として手渡したりしている。これをその場で読んでもらうこともあるし、自宅に帰ってからじっくり読んで頂き、その後で電話やメールでやり取りをし、作品の中に登場した方の話をしたりもする。1000以上ある作品の中からいくつか抜粋します。
【触れ合いレポート 1】
7つのブログを開設して作品を提示しているが、あるサイトで書いた作品に対するメッセージが来た。家族が亡くなっても懸命に生きる少女の話に対する批判だった。そのサイト先は14歳~18歳が主流のサイトだ。
「てめ~糞みたいな日記書いてんじゃね~よ!殺すぞ?おぉ?」
俺だって人間だ。こんなこと言われたらへこむ。だが2009年からネット界で俺がしたかった試み。それは元気を届けるネット大道芸人だ。だから嘘偽りなくどのサイトでも工藤興市の本名で登録した。だからまず喧嘩をすることより、そのメッセージをした方と親近感を感じてみたかった。文字だけでお互いを分かり合うことは難しい。その方のマイページを見ると九州のある地区の17歳の男性らしい。俺は彼の日記も全て見て、友達の紹介文も見ながらメッセージを送った。
「始めまして。工藤興市です。昨日貰ったメッセージなんですけど、ネット界でも初対面であのメッセージは酷いと思いました。貴方の真意を知りたいので、よかったらお返事下さいね」
3時間後。彼から返事が来た。
「てめ~糞みたいな日記書いてんじゃね~よ!殺すぞ?おぉ?」
頭の血管が切れかけた。日本人が世界に誇れるものは、礼節義だ。こいつは礼節義のかけらもない。俺は電話番号やアドレス、住所を添え、最後にこう書いた。
「おい、喧嘩ならいつでも買うぞ。一個人として、一人間同士としてお前と喧嘩する。腹くくって俺に喧嘩売れよ」
17歳っていえば高校生じゃん。脅すようなメッセージを送った40歳のおっかさんもどうかとは思った。だが悪いことは悪い。それをはっきり悪いということが彼の為でもあると判断した。特に悲しかったのは、「殺すぞ?」の言葉だ。俺の作品がどうのこうのよりも、「殺すぞ?」そう言うぐらい俺を本気で殺したいのかが気になったのだ。腹くくって俺に喧嘩売れよと送った、そのメールの下にこうも書いた。
「俺を殺すならどんな感じで殺す?殴る?蹴る?刃物?拳銃?誰かに頼む?どう殺すよ?サクっと殺してくれるなら明日にでも会いたい」
3日後。彼から信じられない返事が来た。
「お前に俺の何が分かるんだよ!?殺すぞ?おぉ?すぐ殺してやるからな!ばか!」
ぶっちゃけ呆れた。彼を責めたことで落ち込んでいた俺のこの3日間は何だったんだ……。所詮俺の思いを伝えても会話のできない人じゃん。彼の人生に首を突っ込むよりも、ただ1読者が俺の作品を読んでコメントをした。そう思うようにしようと決めた。
7つあるブログに別々の作品を載せる日が続く。内訳は、家族の為に命懸けの方々と触れ合ったエッセイだ。彼がいるサイトには、彼だけの為に詩を書いた。彼の日記の文字のタッチが気になってしまったからだ。
「俺は、学校うざいけど俺は、仲間、がいるから楽しい俺は、」
文章全体の句読点の配置に違和感を感じる。
「仲間、が」は普通だと「仲間が、」と書くのではないだろうか?彼が「仲間、が」と書いた日記にはその仲間らしき彼の友達からのコメントがない。
不思議に思った俺はリンク先の友達一覧を見た。大阪、名古屋、北海道など……。彼の登録地域でもある九州の友達は一人もいない。高校生なら、クラスメイトの一人でも紹介文を書いているはずだし、同じ地域の人がいないのが不自然だ。別に俺は感が鋭いタイプでもないが、彼の他の日記でも文字のタッチに違和感を感じた。
「俺は、親に、色々、言われる、けど気にしない、タイプ、俺は、」
文章を書くときに感情が高まると言葉を羅列することがある。それはすぐにでも誰かに何かを伝えたいからだ。その時に長文になったりして句読点を入れ忘れることもある。だが、彼が書いている日記を読むと親関連の話が出る日記にはいつも彼自身の高揚感を感じない。一言でいえば伝えたい対象者がいないように見えた。彼のことが気になって仕方なかった俺は、もっとダイレクトに思いを伝えたいと考え詩を書いた。
【貴方へ】
楽しければ笑えばいいじゃん。
苦しければ苦しいって言えばいいじゃん。
悲しければ声を出して大泣きすればいいじゃん。
怒りたきゃ何でこんなに怒ってるんだろうって自分に問いかけてみればいいじゃん。
それって人間っぽくない?
両手を広げて待ってるから、待ってる俺を否定しないでくれ。
俺は忘れない。俺は裏切らない。
待ってるからな。毎日貴方のこと考えてるから。
工藤興市。
2009年○○月○○日。
イベントや舞台の打ち合わせでバタバタしている俺に、彼がいるサイト先から携帯に転送メールが来た。
「始めまして。私は○○君の親友なんですけど、○○君は昨日自殺しました」
背筋が凍りつきそうになった。俺に喧嘩腰だった彼が自殺をしたのだ。自殺の理由は分からないが、彼と関わった責任が俺にもある。もしかしたら俺の送ったメールが自殺の引き金になったのかもしれない……。恐る恐る彼のマイページを見てみると、日記などは更新されていない。ログイン状況というものも3日以上と表示されている。何故彼が自殺してしまったのか?その原因は俺のせいなのか?俺の疑問を解消する手がかりは彼と親友だという彼女しかいない。彼と同い年だから学校の同級生か友達かもしれない。
※
一週間経っても彼女からは返事はない。だが日記だけは更新され続けている。焦る俺は彼女に何度もメールを送ろうと試みるが、未成年登録のユーザーにはメールができませんという表示になってしまいメール自体送れない。俺のできることは、彼女の日記を読むことだけだった……。一日に何度も更新される日記には「ご飯が美味しかった」とか「洋服が欲しい」などの自分の気持ちが綴られているだけ。彼に対する思いなどは書かれていない。俺にメールを送ってくるぐらいの彼との間柄なら、自分の日記に俺の実名を出し非難してもいいようなものだ。(それが俺のせいならということだが)何か腑に落ちないが、俺のせいで彼を死に追いやったのかと思うと飯も食えず夜も眠れなかった。
10日目の深夜。パソコンの前でいつものようにサイトにログイン状態でうつらうつらしていると、俺の携帯に知らないアドレスからメールがあった。
「前にメール、した、、○○君、、の親友の、、かなえ、、です」
布団から飛び起きて彼女に返事をする。
「あの、何で俺のアドレス知ってるんですか?」
「○○君の遺書の中にあなたの連絡先が書かれていました。彼は本当にあなたを恨んで手首を切って自殺しました」
「俺のせいで自殺したんだね?」
「はい」
言葉なんて何も出ない。俺のメッセージで彼は自殺してしまったんだ。俺のせいで……。彼に謝りたいから、彼の実家に行きたいと彼女にメールをした。ご両親にも事の経緯をちゃんと話し、これからのことについても話したかった。まだ半信半疑だが、彼が亡くなったことだけは事実だろう。それは彼女とのやり取りの中で感じた。チャットのようにメールをやり取りしながら1時間経ち、彼女に彼の自宅に行きたいと再度お願いをしてみた。
「――という気持ちで彼に言いました。暴力的な言い方だったかもしれないけど、俺なりの誠意は見せたんです。連絡先や住所も教えて、俺の日記では彼に対する応援歌のつもりで詩も書いたりしたんです」
「応援歌?」
「ネットの世界は顔も見えないから、言いたい放題のところもあると思うんです。でも日記を書く側にも責任があって、それを閲覧する側にも責任があると思うんです。他人のお家にお邪魔する時に玄関を通りますよね?ネットで自分の場所を作るって家を建てるのと同じだと思うんです。家にお邪魔するお客さんはチャイムを鳴らし、玄関の扉を開けてこう言いますよね?こんにちはって。俺は、それがネット界でも大切なことだと思うんです。礼節義を若い彼に教えたかったんです。でも結果的にこうなってしまって……」
「彼を殺したんですもんね」
「はい」
「人を殺したら刑務所ですよね?どう責任取るんですか?」
「もう決めています」
「何を?」
「彼のご両親に会って、お線香上げたら腹を切ってお詫びします」
「えっ?」
「彼が俺から受けた苦しみには、死を持って償おうと思っています」
俺は本気で死を覚悟した。表現とは人に取っては暴力になる。表現者の道を18歳から選んだときに、その覚悟はしていた。俺の演技や本で自殺する人がいるかもしれない。その時に俺は表現者の道を突き進むのか、それとも死を持って償うのか、ずっと考え続けていたことだ。
俺は死を選んだが、彼女から返事がない。それもそうだろう。腹を切って死ぬなんて17歳の女の子に取っては受けきれるものでもない。ただ彼の住所だけは教えてもらいたい俺は、携帯の液晶を見ながら暫く待った。
電話帳に登録していない番号からの着信。俺は彼女からの電話だと思い携帯を右耳に傾けた。
「もしもし!」
男性の声だ。すすり泣きながら「もしもし」を繰り返す男性。彼女からのメールを待っている俺には時間がない。「あの俺は工藤興市という者なんですけど、今大切な人からのメールを待っているんです。間違い電話なら切りますよ」そうとだけ言い、電話を切った。
電話を切った途端にまたさっきの番号からの着信。出ないで切るが、またすぐ電話がかかる。ひょっとして亡くなった彼のお父さんか親戚、クラスメイトや友達からの電話かもしれない。6回目の着信で電話に出ることにした。
「うぅぅ」
やはり先程の男性が泣いて電話をかけてきているようだ。俺は彼に言った。
「あの、不躾な質問をしますけど、貴方は○○君のお知り合いですか?今、○○君の親友の女性からのメールを待っている状態なんです。もし間違い電話なら番号を再確認してもらえませんか?」
泣いている男性の声はとても悲しそうで、今の状況じゃなかったら話してみたいと思ってしまうほどだ。だが、今は時間がない。丁寧に電話を切ろうと思いその旨を男性に伝えると、彼がこう言った。
「工藤さんごめんなさい。俺、大地です」
「えっ、大地君ってあの大地君?」
「はい」
「本当に?」
「はい。本人です」
電話の主。それは自殺したと聞いていた彼だった。言葉も出ない。自殺した彼が生きている?携帯を握り締めたまま膝を崩す。崩すというより、ヘナヘナと座り込んだ感じだ。緊張を解放したい俺は、タバコを吸おうとするが両手の震えでタバコを落としてしまった。じっと震えた両手を見つめる。その様子を見て何故だか涙が出てきた。大粒の涙が落ちる自分にびっくりする。何だ、この感覚……。自分が死ななくて済んだという生へのこだわりの安堵なのか? 彼の親や親友などに会って罵倒されることに対しての恐怖が緩和された安堵なのか?彼が生きていたことに対して、俺は何故安堵して泣いているのか?暫く考えて彼との会話は出来なかった。時間にして30分弱。俺が言葉を発さないままの状態が続いたが、彼はずっと泣いていた。やっと頭が整理できた俺は俺は彼に言った。
「ねぇ、大地君。しっかり聞いてね。大地君はさっきメールしてきた彼女じゃない?あと、俺が気になっていたことを一方的に話すけど、大地君は親と諍いがあるんじゃないの?わざわざ俺に電話してくるってことは、それなりに追い込まれた状況だと思ったんだ。だってお互い喧嘩したってネットの中の話しじゃん。でも大地君は喧嘩を現実に持ってきた。17歳の若い子がネットを飛び出して直に俺と話したいってことに何か深い意味があると思ったんだ。勝手な推測かな?また今度落ち着いた状態の時に話す?まぁ、今お互いに泣いてるしね。俺緊張しすぎてうんこ漏らしちゃった」
俺の冗談に引っ張られたのか携帯の向こうから笑い声が聞こえた。ただ泣いていた空間が少し変わる。
「工藤さん腹切って死ぬって言わないで下さい」
彼の言葉に愛を感じる。すかさず「ごめんね、死ぬって言って。ビックリした?」そう切り返す。
「そんなこと言われたら俺怖いです。だって冗談でメッセしたのに、工藤さん本気じゃないですか」
「本気?」
「だって、さっき言ったじゃないですか」
「あぁ、さっき言ったよね。大地君の親友の彼女にね」
「あっ」
「やっぱそうだったんだ。何となく彼女が大地君だと思ってた」
「ごめんなさい」
「あのさ、あの日記よかったよね。女版大地の日記。えっと半年前の夏の日記だったかな。家族をテーマに詩を書いてたでしょ?」
「えっ、あの」
「家族を恨んでるってあの詩。あれよかったよ」
彼が多重登録で女の振りをして書いていた詩。俺はそれを褒めた。彼はただ呆気に取られているようだ。目を閉じて女版大地の日記を思い出し、声に出した。
8月○日。晴れ
小さい女の子が親と一緒に仲良く歩いてるのを見た。浴衣着て可愛い女の子。すごく笑顔。笑顔。笑顔。祭りにでも行くんだろうな。私は親と一緒に過ごした記憶はない。だから羨ましい。お父さんお母さん。たまに口に出してみるけど恥かしくなっちゃう。。。。。。。。。みんなはどんな顔してお父さんお母さんって呼んでますかぁ~?????
8月○日。曇り
テレビ見た。お父さんが子供を捨てるドラマ。お母さんが残ってるからまだまし。
8月○日。晴れ
男って90%はマザコンなんだって。雑誌見たら占い師が言ってた。きもいよね男って。きもいよ、。、。、。
8月○日。晴れ
一人ぼっちって感じたことある?何で自分が産まれてきたんだろうって考えたことある?自分は必要とされない人間だって思ったことない?う~ん、バスに乗ってるお婆ちゃんと一緒にいたおじさんが言ってた言葉にへこむ。お母さん産んでくれてありがとうって言ってた。馬鹿じゃない。うざい。
8月○日。雨雨雨
雨が降ったら死にたくなる…もっともっと雨が降って私を流して…今度生まれ変わったら一人ぼっちの人生じゃなく…アイサレタイ
8月○日。晴れ
生きてるのに死んでるみたい。彼氏もしないし誰もアイシテくれない。友達もいないし寂しいよオオオオ!!!!みんなはこんなとき誰に相談するんだろ???やっぱオカアサン???
8月○日。晴れから雨
お袋の味っていったりするけど差別用語だ。
※
俺は彼の日記を何度も読むうちに丸暗記していた。彼の親友の女性だと思って読み出した日記だが、何度も読み直すうちに、もしかしたらこの日記は男が書いているのかもしれないと思うようになった。あくまでその時点では憶測でしかなかったが。大地という人間の役を演ずる役者のように、俺は彼になりきって女版大地の日記を言葉にし続けた。演じ終わると鼻をすする声が聞こえた。どうやら彼は泣いているようだ。
「びっくりして言葉も出ません」
「どうして?」
「だって僕の日記が言葉になってすごく伝わってきて。でも書いてるのは僕で、いや僕の中の女性で?う~ん」
「ほら、頭の中を整理して話してよ」
「あぁ、はい」
「家族を恨んだ詩がいいって言われてびっくりしたでしょ?」
「はい。でも詩なんて書いてないですよ。日記だし」
「いや、それが心の詩なんだよ」
「……」
「愛することも憎しむことも、自分の中に持っているもの。家族を恨んだ日記を書いても、俺には渇望に見えた」
「渇望?」
「そう。愛して欲しいっていう愛の渇望。俺の勝手な想像だけど、大地君の親は傍にいなくて、施設かお婆ちゃんと一緒に暮しているんじゃないの?」
「えっ?」
「俺が大地君の日記を見たときに思ったのは、夜ベットの上で書いてる日記だと思ったんだ。それも今一緒にいる家族が寝静まった後、そっと書いている日記だと思った。部屋を暗くしてね」
「何で分かるんですか?」
「本当は行間を空けて、広々と日記を書きたかったんでしょ?でもそれができない状況。それを考えたんだ。一間のアパートで隣にお婆ちゃんが寝ているとか、パソコンが施設にはなくて、手書きのメモを友達か職員さんに見せて、ブログを更新してもらってるとか……。沢山想像しちゃったんだ」
延々と話し続ける俺の言葉に彼は電話越しで興奮しているようだ。元を正せば、ネットの書き込みに対する喧嘩話。それが短時間の触れ合いの中で絆が生まれ始めていた。聞けば、俺が彼の為に書いた詩が心を動かしたらしい。ネット界で誰かれ構わず喧嘩メールを送っていたのは、子供心理からだった。「誰か僕に構って!僕はここにいるんだよ!」彼の心の叫びは、相手に対して暴力的な行動に出てしまい、それを制御できずに悩んでいたそうだ。彼が産まれたばかりの頃両親は離婚し、彼は親戚の家をたらい回しにされながら17歳まで生きてきたらしい。現在は母方の遠縁のお婆ちゃんのところにお世話になっているそうだ。両親の間に何があったのか分からないが、子育てを拒否し、また別の家族を作って生きている現状に憤りを感じた。でも俺にできることは何だろう?その両親を殴りに行くのか?それで全てが丸く収まるのか?すっと冷静になって考えた。答えは一つだ。それは今の有りの侭の彼を受け入れること。一期一会。喧嘩から始まったこの出会いも一期一会だ。せめて彼が俺の作品や、言葉で笑顔を取り戻してもらいたい。彼にそっと提案した。
「これから誰かれ構わず喧嘩は売らないって約束してくれるなら、大地の為だけに作品を書いて直接メールで送るから。どうかな?」
「まじっすか!」
子供の様にはしゃぐ彼。たった一人のファンに作品を送る喜びに感謝して涙が出てしまう。彼との新しい関係が始まった……。
2日後。
彼からメールがあった。
「工藤さん、初めて親と話しました」
びっくりした俺は急いで彼に電話をした。すぐには繋がらない電話に苛々したが、何度目かの電話で彼が出た。
「もしもし?」
「工藤さんどうしたんですか?」
「びっくりしちゃってさ。だって急展開じゃん。親と話したってメールが来てどうだったのかと思って。大丈夫だったの?」
「はい。何だかすっとしました」
「おいおい、いい声じゃん。何か肩の荷が降りた感じだね」
「分かります?」
彼はこの2日間、お父さんやお母さんに連絡をつけ電話でじっくり話したそうだ。きっかけは俺が言ったこの言葉らしい。
「ネットで誰かれ構わず喧嘩を売るよりも、素直に親に喧嘩売ったほうがいいよ。親にはその喧嘩を受ける義務がある。だって大地を捨てたんだから。そんでさ、はっきり言ってやれ。何で俺を愛してくれないんだって。何で俺だけ一人ぼっちなんだって。思いのたけを全てぶちまけてやんな」
彼は考えた末、俺の提案に賛同したのだ。
「それで親と話したことで、未来のヒントを掴むことができた?」
「まだよく分からないけど、やっぱりどんな親でも親は親なんだなって思いました」
「どういうこと?」
「お父さんもお母さんも泣いて謝るんです。何で僕が一人なのかの訳もちゃんと聞いて、正直喧嘩売るより浄化された感じなんです」
「浄化?」
「はい。あんなに恨んだ感情が流されていくっていうか……。ごめんなさい。上手く言えなくて」
親の都合で一人ぼっちになった彼は、実は両親が今の自分の家庭に引き取りたいと準備を進めていたことを知った。父や母の家庭の事情もあるが、時間をかけて家族との話し合いをしていると聞いて彼はこう言ったんだと。「自分の幸せを大切にしてね。僕は僕で生きます。でも俺の誕生日だけはプレゼントを贈ること」彼が笑って俺にそう言うが、どんな気持ちで両親に彼が言ったのかを考えると唇が震えてしまった。下唇を噛んで泣くのを我慢して彼に平静を装う。
「僕は僕で生きますなんて……。そんなことを言える貴方を尊敬する。大地すごいよ」
「そうかな?」
「俺はその歳の時にそんなこと言えなかったと思う。マジですごい。感情的に大変な決断がその言葉だと思うけど、それを口に出して言ったことがかっこいい。これから少しずつでいいから、心がもっと安定して笑顔が増える人生になっていけばいいね。俺はたいした力になれないかもしれないけど、大地の幸せを願って作品を書き続けるから。大地聞いて欲しい」
「何を?」
「お前は一人じゃないからな?俺がいるんだから。歳の離れた友達かもしれないけど、お前が真っ当に生きてるなら俺はお前を守ってやる。お前を守る為なら……。また腹を切るって言ったら引く?」
「引くよ!もう止めて~!」
「じゃ、お前を守る為にうんこ漏らすはどう?」
「それ、どんな状況なの?」
「確かにそうだな」
「もう、止めてよ~!工藤さん。色々ありがとう」
「いいえ、どういたしま、」
「どうしたんですか?」
「慣れない敬語使ったから舌噛んだ」
「あはははは!マジでウケる!」
俺に取ってお金に代える事のできない最高の幸せは、こういう状況に遭遇した時だ。親を殺すと言っていた彼が、親を許し己の精神の成長を感じて笑っている。彼が笑顔になる手助けが少しでもできてよかった。
その後。
大地はブログを閉鎖した。理由を尋ねるとこう言う。
「だって彼女ができて忙しいんだも~ん」
未来に羽ばたいて行け大地。陰ながら応援するから。お互い笑顔で生きてこうぜ。
出逢ってくれてありがとう。

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